ひとつだけ「とっとき」の思い出があり、記して偲びたい。
2003年だからもう16年も前のことになる。刊行したばかりの歌集を和田さんにお送りしたところ、お手紙が添えられた句集が届いた。
手紙には“俳句をやっているので、詩歌の本を送ってくれたことがとてもうれしい”といった趣旨のことが書かれていて、句集にはこんな句が添えられていた。
「巴里の皿無事に届きて小正月」この句は句集には収録されていない。歌集のタイトル「フラジャイル」にちなんで書いてくださったものなんだと思う。
歌集のタイトルはいわゆる"handle with care"、取扱注意をさす単語である、とあとがきにちゃんと書いてある。壊れやすいとかもろいとかJPOPの曲名からとったとか、事実無根であったり、あとがきをまったく読んでいないか無視しているっぽいことを好き放題言われがちだったが、意図をちゃんとふまえて、しかもこんな粋に反応してくださったのは、ほとんど和田さんおひとりだけだった。
うれしくてうれしくて、大事にしてきた。これからも書棚で見守っていてください。
人形も腹話術師も春の風邪 和田誠
おでん屋のたねそれぞれに唄ひけり
梅雨晴間窓にヒンデンブルグ号
秋の灯や集ひてやがて星になる
和田さんの句はその画風のようにやさしく且つコスモポリタニズムあふれるもので、句材は多岐に亘りながら、すーっと風が吹き渡るような読後感が残る。
生前の和田さんには一、二度お目にかかった。これも15年程前だろうか、TISのイベントのオープニングパーティに伺った時、偶然居合わせ、気さくにお声がけくださった。夏前ごろだったのだろうか、和田さんはアロハにジーンズの出で立ちが決まっていた。パーティが終わり、二次会に走っていかれた(本当に走ってた)。
故人のご冥福を祈りつつ、絵や句をめくり、秋の夜長を過ごしたい。