川柳と俳句と接頭辞

/ 2016/10/31 /
話のはじまりは週間俳句第497号のこの記事を読んだこと。

『近現代詩歌』と僕の好きな五句/紆夜曲雪

池澤夏樹個人編集の日本文学全集『近現代詩歌』に対して、二〇〇〇年代の受け手として、また文学全集としてどのように思うか、といった感想がコンパクトに述べられていて興味深い。
後半、話題は入集しなかった作家の好きな作品を挙げて紹介する、というものになり、最後にあげられた石部明の作品、

 さびしくて他人のお葬式へゆく  石部明

についての読解(上記記事から引用)、

掲出句の「他人」は、死んでしまった人との絶対的な距離から生まれた呼称だと読んだ。死なれたらひとは圧倒的なまでに他人になってしまう。それも含めてさびしい。そういう距離を隔てた死者という「他人」に、それでもなお関係し続けようとしてしまう、それもまたさびしくて、きっとまた薄暗い路地を歩いてしまっている。

にんんん、と躓き、こんなことをつぶやいた。



掲出句を引用文のように読むこともできるだろう、と思う(ただし「さびしさ」の発生が葬式の後となるのは首肯しかねる)。そうすると、すべての葬式が「他人」の葬式ってことになりますね。「お葬式へゆく」という行為が過剰なものか、そうでないか、が鑑賞の分かれるポイントになるのだと思うけれど、「他人」を「死者」ととらえると、行為の過剰性は和らいで、なんか普通のことのように思えてしまった。それはそれでいいのだろうか。いいのかもしれない。

私がそうは読めなかった、これは過剰なことを言ってるのだ、と受け取ったのは、「他人」のせいではなくて、実は「お葬式」のせいだった、とツイートの後に思い至った。

ここで、この句を少し変えてみると、こんなふうになる。

 さびしくて他人のお葬式へゆく  石部明

 さびしい 他人の葬式へゆく

※上記の操作に作品を改変しようとか添削しようなどという意思はみじんもありません。川柳についての考えの補助線としてのみ書いております。

下段の表記では急に自由律俳句めいて見える。つづけると「さびしい他人」となってしまうので便宜的に一字アキを入れたが、このようにすると、「他人」が喩ではなく主観的事実の提示にますます近づいて見える。

「お葬式」が口語なのだ。口語なのに、概念みたいに見える。話し言葉として「お葬式」というけれど、句の中に現れるとき、俳句では接頭辞は使わないことのほうが多いのではないか。以下、川柳からひいてみる。

 みるみるとお家がゆるむ合歓の花/なかはられいこ

 中年のお知らせですと葉書くる/丸山進

 国道で死んだ蛙のお父さん/広瀬ちえみ

「お葬式」「お家」「お知らせ」「お父さん」といった接頭辞をもつ単語が使われることによって、句の内容が一個の事実から、行為の報告や観察から、概念の側へ向かって、ふわっと離陸する。このふわっとした感じが、俳句にはないもののように思う。

つづく(脳内で)



嵩をもつ

/ 2016/10/22 /
小津夜景「フラワーズ・カンフー」を眺める。
じわじわと驚きが内部にひろがるのを感じる。
「天蓋に埋もれる家」「出アバラヤ記」の嵩がくれる驚き。
(無知によりプレテクストについていくのに時間を要するわけですが、それはひとまず置くとして)

斉藤斎藤「人の道、死ぬと町」は全体が上記二編のような(方法はかなり異なるけれども)嵩をもつ一冊で、特に「棺、棺」はこの分厚い歌集の五〇ページを占めている。
「棺、棺」はこの一連で、短歌連作と歌人論と短歌の本質論と殯をぜんぶいっぺんにやってしまっている。

短歌や俳句で「何」ができる、とか考えるのが私はあまり好きではないのだけど、嵩をもつことに意義がある、と
この嵩がこれらには必要だよね、と思えるものに出会ったのはうれしいことです。

(蛇足ですが「天蓋に埋もれる家」を読んでヤン・シュバンクマイエルの『アッシャー家の崩壊』を思い出しました)

最近のどうこう

/ 2016/10/01 /
最近どうこうしているか、のご報告です。

ひょんなご縁から「blog俳句新空間」でなんやかや書かせていただいてます。
季節毎の「俳句帖」にだいたい五句俳句を寄せ、「およそ日刊俳句新空間」では2年にわたり人外俳句鑑賞をしました。(まとめは前回分↓を参照)
紙媒体「俳句新空間」が年に二度ほど出ておりまして、こちらでは新作二十句を寄せています。最新号では企画「二十一世紀俳句選集」にも参加、二〇〇〇年代の自選十句を寄せました。


早坂類さん主宰のweb媒体「RANGAI」では造本作品のweb展示を不定期で行っています。
今日(10/1)付で4回目を公開しました。



これまでの展示はこんな感じ↓です。







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