『同じ白さで雪は降りくる』15首選

/ 2019/10/04 /
レタスからレタス生まれているような心地で剥がす朝のレタスを
歯ブラシの腰のくびれのなかなかに握りやすくて春は暮れたり
バスゆれて眠る子ゆれて夢ゆれて夢のまにまにバス停がある
わたくしが育てるゆえにわたくし化していく子ども雨ふり嫌い
一個から変えるピーマン手に取れば軽い こんなに緑のくせに
栓抜けば湯よりもわれの流れ出てしまいそうなる夜のひろごり
全身にくまなく舟をめぐらせて永遠(とわ)に拡張されたき月夜
ふるふると掬い取られて欠けてゆくプリンは幼な心のごとし
ゆく扉くる扉ありて人生の長い廊下にドングリの落つ
優しさが善玉菌を造るという説あり雪は窓に光れり
脱ぐたびに静電気生むセーターをほかの力に換えられないか
白という哀しみ深く灰色の沼に落ちては沼になる雪
卓上に鍵を並べる 夕ぐれの鍵はそれぞれ疲れていたり
霜月の雨ふり止まず伝いくる水の綴りを窓に見ており
玄関に小さな靴は散らばって大きな靴を困らせている


手堅い表現力で身辺を冷静に見つめ、小さな発見を掬い取る。そうした多くの歌が連なっていくなかで、しかしその奥になにか「反骨心」と呼びたくなるようなものが時折顔を覗かせている。
子供が「わたくし化」していく、という言いぶりや、ピーマンに対してほとんどいちゃもんともいえる悪態をついてみせたり、そういうところを特に楽しんで読んだ。
「沼に落ちては沼になる雪」や「水の綴り」といった天象を詠んだ表現のなかにも、地味ながら立ち止まらせられるものが多かった。


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